ちいさなちいさな三部作
母と子のいる風景
 

(第一部)
私がまだ子供の頃の、時折ふと思い出す一つの情景がある。
8歳くらいになっていたのではないだろうか。

晴れた日の夕方。たぶん季節は秋。夏に近い秋ではなく・・たぶん晩秋。
和室から続く 庭に面した廊下・・縁側か。
建て替える前の自分の家。今と違って庭と道との間に遮る物はなく、
近所の人が庭に入ってきては縁側に腰掛けて話し込んでいったあの頃・・。

その日も母がサンダルを履いたまま、縁側に腰掛けて近所の人と話し込んでいる。
私は、その場ですることもなく、おしゃべりに夢中な母達の顔を交互にみて
聞いている。
いつも母のそばにいるはずの病弱な妹は、なぜかいない。

庭の花の話題にでもなったのだろうか、座っていた母が立ち上がって話し始める。
私の目の前に母の大きな背中。セーターか割烹着だったか・・白っぽい広い背中。
時折、何が可笑しいのか、笑い声をあげると、母の肩と背が大きくゆれる。

その次の場面。私は母の背中に吸い寄せられるようにフワッと立ち上がり
スローモーションのようにゆっくり母の背中におぶさる。

“あら、なに?めずらしい・・”

母は、一瞬驚いた様子だが、すぐに何事もなかったように、決して軽くはない私の体を
一度よいしょとオブイなおして、そのまま話の続きを始める。

母親としての習性なのか、話しながらも体を左右に揺らして背中の子供を
寝かしつける動作をしている。
背中の私はどういう表情をしていたのだろう。
いつもの、弱い妹を守る姉らしい顔とは違っていたかもしれない。
ただ、いつまでも近所のおばさんが母と話してくれていればいいと
そればかり考えていたように思う。


あの日の母の背中の感触は、不思議と今でも忘れない。
あの時の母の背中のぬくもりは、私の記憶から離れない。



(第2部)
結婚してふたりの子供に恵まれた。
始めは男の子。3年して女の子。
二人とも親がいうのも何だが、良い子に育ってくれた。
いやいや、決して世間で言う良い子とか、
人様の子と比べて良い子と言うのではなく、なんていうか
子供の心身の活動範囲が、親の許容範囲と運良く合致している
・・と言うことかな。
勿論、子供はどんどん今でも範囲を広げているから、
親も負けずに許容範囲を修正してるけどね。

ウチの許容範囲がかな〜り広い上に、境界線もアバウトだから
いつまでも、あの子達は親に良い子と言ってもらえるのかも。

ああ、話が脱線しそう。

娘が産まれてから、息子は多少の赤ちゃん返りはあったものの
すぐに妹をとてもかわいがる模範的な(?)お兄ちゃんになった。

私達は、息子に対しておにいちゃんとか、男の子とか
という言葉は、今の今まで発したことはないが、
それでもそういう意識を、
知らず知らず植え付けていたのだろうか。

小学校にあがる頃は、すっかり男の子らしく(?)
おにいちゃんらしくなり私にベタベタすることもなくなった。
時々私が彼を抱いても、照れくさそうにしてちょっと抱かれるだけ。
すぐに妹がヤキモチで飛んできて、兄に取られまいと私に抱きつく。
息子も、それを待っていたかのように離れ、すぐ脇でニコニコとそんな妹をみている。

私は、それを子供の成長と思いながらも何かが引っかかっていた。
娘を抱きながら、そして側でいつもニコニコと見ている息子を見ながら
何かを思い出そうとしていた。



(第3部)

晴れた日の夕方。夏が近い季節。我が家の居間。

小学校低学年の息子がテレビを見ている。
妹は、隣の部屋で幼稚園の制服のまま、昼寝。

私は良く乾いた洗濯物を籠に一杯入れて、おもむろに
息子の隣に座る。
洗濯物を畳みながら、時々首を回して、ため息混じりにつぶやく。
「ああ〜、なんだか、疲れたなあ〜・・」
息子、振り向いて答える。
「疲れちゃったの?肩、たたく?」

「ありがとね、今日、ママ頑張ったから
エネルギー使い果たしちゃったよ」

息子、にこっと笑って立とうとする。

私、何気なく言う。
「ねえ、充電してくれない?」

「ジュウデン?」息子、首をかしげる。

「そ、充電。」

そういうと私は息子の手を取って、向かい合う形で膝に座らせた。
そして、戸惑う息子をぎゅうと抱きしめて言った。

「じゅう〜で〜ん!」

あとは、そのままじっと、ただ抱きしめ続けていた・・。

唐突な私の行動に、始めは驚いた様子だったが、すぐに抱きしめ返してきた。
「ママに じゅうで〜ん!!」

「じゅうで〜〜ん!」二人とも負けじと抱きしめ合う。
「痛いよ、ママ」
「だって、充電だもん、○○ちゃんからエネルギーもらうもん」

どのくらいの時間がたったろうか、息子が私に聞く。
「ね、元気になった?」
私、答える。
「うん、○○ちゃんから元気をもらった!
 ねえ、ママにこれからも充電してくれる?」

「うん!いいよ!!」

息子は元気に私の膝の上から飛び出していった。


それから
彼は思いついたように私に充電してくれるようになった。
たまには、自分から大袈裟にうなだれながら
「なんか、俺、疲れちゃったよ。ちょっと充電たのむぁ〜」
なんて、わざと大人びた口調で申し出ることもあった。

そんな時は何をしててもその手を休めて
さりげなく、はいよ〜っと言って手を広げる。
     じゅうで〜ん!
HPのトップへ

雑記帳の目次へ