「教育実習の思い出は・・」 30年以上も前の たった50分間の思い出


ビタミンに書いたひょんな事から、大昔の教育実習の思い出が蘇った。
30年以上も前の、しかもたったの2週間という短い時間に詰まった、濃すぎる思い出の数々・・

その中で、今でも特に忘れられないシーンが一つ。
それを書いておきたくなった。
一学生の、上にも書いたけれど、たった2週間という短い間の
たった一つの出来事を
大袈裟に、さも一大事だったかのように・・書きたくなった。



大昔の事だから、細かな事は憶えていない。
なぜ、そういう「舞台」になったのかも忘れている。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中学一年の教室。

このクラスは「担任」の勉強もするために入ったクラスで、
国語の他、HRや掃除、給食などの時間も生徒と一緒に過ごしていたクラス。

このクラスでの実習終盤の授業。

その日は何故か「参観日」状態になっていた。

教室の後にゾロリと並ぶのは
教頭(私の実習担当)と他の国語科の先生方。
それに、誰だか記憶に無いけれどエラそうな(?)知らない方々。

今思うと、教育委員会の人たちの視察か何かが、たまたま入ってたのかも?

とにかく生徒も私もかなり緊張してたのは確か。

でも、授業のまとめだったし、それまでもスムーズに何も問題なく
予定通りに行われてきた授業なので
その時も、普通に・・平常心で・・と進め、
生徒も段々とリラックスしてきたと思う。

この時の教科書の題材は、歴史小説?にあたるのかな・・
マゼランの世界一周の時の、仲間達との
様々なエピソードなどが物語として書かれていた。


それを国語の授業だから、
段落に分けたり、段落ごとに意味や、
登場人物の心情やら背景を探る・・そんなことをしていたと思う。


授業(参観)も順調に運び
私は予定通り(マニュアル通り・・)に時間配分もバッチリ
そして、マニュアルどおりの質問をした。

それは授業の流れの中では、キーになる設問で、
でも答えは当然決まっていて、スムーズに流れる・・そんな内容の設問だった・・はず。


「さぁ・・そこで、質問。マゼランはどうしてこういう態度をしたのでしょう」
とかなんとか、そんなんだったと思う。

肝心の質問の中味、それはすっかり忘却の彼方だけれど、
私はその時、これから起こる授業の展開を予測していなかったことだけは確か。

一人が手を挙げて「当然の答え」を言った。
他の生徒も挙手して答えたが、みな同じ所にたどり着く「正しい」答え。

当然だ。
間違った答えを考えた生徒も、その正しい答えを出されると納得して修正する。


「そうですね・・他には誰か?違う意見はない?」

私は多分、ニコニコと教室を余裕を持って見回した・・はず。

「ないで〜す」全員がそう言う場面を次に待っていた。

すると、一人の女子生徒が手を挙げた。

その子はとても目立たなくて大人しい子で、
実習に行ったときも最初のうちは、積極的な生徒達が「先生先生」とまとわりつくのを
少し離れたところから見ていた。
でも、こちらから声を掛けて話してからは、いつの間にか傍に来て、
「先生・・」と話しかけてくれる・・そんな生徒だった。


その子が手を挙げている。後ろに大人たちがたくさん居るのに。

「はい、〇〇さん」私は彼女を指し、彼女はそっと立ち上がって小さな声で答えた。

その答えは・・・私が全然予想もしない答えだった

登場人物(マゼラン)の行動の意味を全然、違って解釈しているのだ。

筆者が非常に判りやすい表現をしているので、
答えが他に行くのがちょっと考えにくい・・そんな設問だったのにもかかわらず。

明らかに彼女の答えはテストに出たら×になる回答。

そこで、少しの間、みんなで「その答えに対する意見交換」をした。

すでに想定していた授業ではなくなった・・

生徒達はいろいろ意見をいう。

だが、変な雰囲気でも、違う意見の子が無視されるでも・・決してなかったのは確か。
みな、真面目で、全てモットモで、正しい答えに導くに充分な意見だった。

少ししてから
それじゃあ・・と、私はもう一度質問をして挙手させた。
でも
「自分が思ってる通りでいいのよ」と付け加えたのも多分記憶違いではないと思う。
付け加えたけれど、彼女も皆と同じ答えになると思っていた。

でも
彼女は・・ひとりだけ、自分の始めに出した答えの方に挙手した。オズオズと。
意地を貼っているわけでもなんでもなく、
私の言うことを守って自分の気持ちに正直に手を挙げた・・そんな感じだった。


「そっか・・〇〇さんは、そう思うんだね」
私の言葉に彼女は頷いた。


少し沈黙。生徒も、後ろのお偉方も・・教頭先生も・・

そして、私は・・そこから先は
今まで書いた以上に鮮明に覚えている。


私は、心の中でいろいろなものが格闘していた。どうする・・? どうする・・?

でも「どうしよう」というパニックではなかった。・・と思う。多分。


そして、私の授業が短い中断(短くなかったかもしれない)を経て再開した。



「そうか・・では、これから先生が答えを言いますね。

答えは・・殆どのみんなが手を挙げたほうの答えです。

マゼランは、このとき、皆が言った通りの事を思って行動した・・それが答えです。

もしも国語のテストに、この問題が出たら、こういう内容を書けばマルがもらえます。

この話を書いた作者は、きっと・・そう思ってマゼランという人を書いたでしょうから・・


ただね・・

先生は、本当はこうも思ってるの。
「本当の答えは誰にもわからない」って。

このお話の中のマゼランは、確かにそうだったかもしれないけれど
実在したマゼランがこういう行動を本当に取ったとして・・

マゼランは実際にいた一人の人間です。
彼が心の中で、どう考えていたか・・誰にも、想像はできるけれど
絶対にそれが合っているなんてわかりません。

もしかしたら、私達の誰もが考えつかなかった
〇〇さんの考え方をマゼランもしたかもしれません。
それが合ってるのかもしれない。合ってないかもしれない。

それは誰にもわかりません。人の心の中だもの。

だから
もしかしたら、〇〇さんの言ってるとおりなのかも知れない。


・・・それでいいかな?」

私はその女子生徒を見た。彼女は、にこっと笑って小さくコクンと頷いた。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後の事はよく憶えていない。
多分、予定の授業は時間切れでできなくて
かなり中途半端な授業になったのだと思う。



そしてその日の放課後

国語教室だと思うのだけれど
教頭と他の国語科の先生と私。
(あの他のエラそうな人達はいなかった。)

私の授業の採点?反省会?の場だったのだと思う。


ある女性教師は、今日の授業について
「まあ、一年生だったからあれでいいかもしれないけれど
中学の教師としてはどうかしらね。
アナタは幼稚園や小学生の方が合ってるかもしれないわね」

「道徳や学活ではなく国語の授業なのだからもう少しそちらに重点を云々・・」
「時間配分などもっと考えて・・」

と、結構、手厳しい意見。


教頭先生と担任指導の先生は、とても評価してくれたけれど
実際、どうすべきだったのかは未だにわからない。

国語の授業を逸脱したのも確かだし。
マニュアルを無視したし、時間配分なんか途中からメチャメチャだったし。
でも、今でも、その場になったら、きっと同じ事をする気もするんだけど。

結構言われ放題だったけれど
女の子のあのニコッと笑った表情を思い出して
21歳の女子大生は生意気にも反省はしていなかったと思う。
(神妙な顔はしてたと思うけれど)


大昔の事をこんなに良く憶えている理由の一つは
もうひとつの思い出・・
嫌でも「この時のエピソードを文にして纏めなければならなかった」思い出と
ワンセットになってるから。


実習を終えて、大学に戻り
教育実習科の教室で、体験談として、この話をしたところ
教授がエラク関心を示して
この話を、教授が受け持つ授業の中で、もう一度話す羽目になった。
しかもホールのような大教室(階段教室)で・・

当日、マイク片手に何度も書き直した原稿を見ながらの体験談は
緊張しっぱなし、かつ頭真っ白で支離滅裂で、
教授も苦笑(?)していたのを
かなり苦い思い出として記憶しているから(~_~;)
今、思い出してもお粗末至極(^^ゞ

(今ならもう少しマトモに図々しくできたろうに・・


そして蛇足だけれど
階段教室の一番前の端っこの席では
そんな私を、他学部から授業をエスケープして来た
一人の男子学生が気の毒そうに見ていた。

晴れ舞台(?)の応援に駆けつけてくれたダンさんだった。

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