私が出会った先生
     「夢」

これからお話しする先生・・正確には「御夫婦」といった方がいいのかな。
子供達ふたりが中学時代、お世話になった塾の先生御夫妻の話です。

「先生御夫妻」という書き方で、おわかりかもしれませんが
子供達が通った塾は、御夫婦が自宅を開放して教えてくださる、
個人経営の小さな塾でした。
でも流行の「○文式」という類の塾ではなく
お二人が独自でやっている近所の小さな塾で、
募集する生徒はその地区の一校の中学(市立)に通っている生徒だけ。
テキストはその中学の教科書。
御夫婦だけで教えていたので募集人員も限りがあるのに、
入塾希望が多く、もう何年も前から、公民館を借りて
「入塾試験」を行なわなくてはならないくらい、超人気の個人塾でした。

先生ご夫妻の年齢は私達夫婦より少し上くらい・・だと聞いています。
お子さんがいない御夫婦で、塾生である生徒達を自分の子供のように
可愛がってくださいました。
お二人とも年齢よりずっとお若く見えて、
先生というイメージよりお兄さんとお姉さんという感じ・・
子供達も「先生」とは呼ばずにニックネームで呼んでいました。
これは実は子供からの情報です。

ここは親の出番は皆無で、私など2人の子供が通算6年も御世話になっているのに
ご主人の方に一回会ったきり。奥様の方にはお会いしたことがありません。
奥様とは電話で一度だけお話ししましたがオットリとした方で
塾のやり手の先生とはとても思えませんでした。

その代わり、子供達と先生は本当に仲が良く、
塾は子供の楽しみの場でもありました。
楽しくて楽しくて・・部活も殆ど全員がやっていて、
全国大会などにも出場した生徒もいましたが、塾は休むことなく続けていました。
息子など風邪で学校や水泳を休んでも塾には行きたくて行っていました。
成績の話をするのも変かもしれませんが、それが本業の塾ですからね。
先生の徹底した教科書マスターの方針と教え方(自分で勉強する気にさせる)が抜群で
全員が成績上位だったのも事実でした。

子供の話では、とにかく勉強を教えるのも、勉強するのも大好きというお二人でした。

いつか、リタイヤしたら
「もう一度大学に行って勉強したい」が口癖のお二人だったようです。


(これからの話は「男先生」「女先生」と書くことにします。)

                ・・・・・・・・・・

息子が此処で御世話になって無事に第一志望の高校へはいり、
今度は娘がこの塾に御世話になることになってホッとしたその年・・
娘が塾に通い始めた5月か6月・・だったと思います。
珍しく、先生から父兄宛に手紙が届きました。
そこには、次のようなことが書かれてありました。

人間ドックで、女先生の乳ガンが見つかったこと。
かなり予断を許さない状態で、すぐに手術はできないので、
抗ガン剤などを兼ねた長期治療をすること。
身を裂かれる思いだが2人で全力で戦う事。
塾については、このまま続けるけれど、
今までと同じペースで教えられないかも知れないし、
途中でどうなるかわからないので
退塾希望の生徒は、4月からの塾費を返還するので申し出てください・・と。
生徒へのお詫びと2人の思いが綴られていたように思います。


子供達には衝撃的だったけれど、結局全員が残り、
それから3年間、女先生の治療や体調に合わせながら
(時には塾に行く直前にキャンセルになったことも)
それでも必死に先生に教わり、先生を支え、過ごしました。
先生ご夫妻も、癌との壮絶な戦いの中、生徒への指導も半端ではありませんでした。

こんな事になったので、その次の年から生徒募集は行なわれませんでした。
娘達が最後の生徒になってしまったわけです。
子供達は自分のためには勿論、最後の生徒を送り出す先生のためにも、
と頑張りました。

3年後の春・・最後の塾生である娘達も高校に合格し、
この辺りではちょっと有名だった塾は幕を閉じました。

「先生達・・これからどうなさるんだろう・・
しばらくしたら、男先生だけでもまた塾を再開するのかな。
勿体ないものね、みんな待っているんだものね。」
そんな期待を込めた噂話をする私達の所に飛び込んできた知らせ・・

それは・・なんと

男先生は東京の公立大学へ編入試験を受けて合格!
そして、女先生は・・
東京の有名国立大学に入学して語学を学んでいたのです。
それもセンター試験で高い偏差値を取って一般募集で合格したのです。


お二人は癌というアクシデントがあった事で決してくじけませんでした。
それどころか、自分達の夢を前倒しで実現してしまいました。
生徒達に全力投球しながら・・病気と闘う事に全力投球しながら
平行して受験勉強をしていたのです。
「もう一度大学に行って勉強したい」という夢を実現するために・・。


最後の生徒である子供が塾を卒業する時、
先生から「生徒諸君」と題した長い長い手紙を貰いました。
勿論、生徒達に、です。
本当に残念ですが、勿論ここに載せる訳には行きません。
でも思わず涙が出てしまったほど
生徒達への人生の応援歌が力強い文章で書かれていました。
一生、子供の宝物になるでしょう。


でも、その応援歌で一番助けられたのは・・
それから何年も経った今、それを思い出している
この私かもしれません。